ディジタル信号処理(DSP)の肝である「信号遅延」の振る舞い、その物理的な意味がイメージできれば、ディジタル信号処理の理解は難しくありません。この信号遅延がもたらす波形の時間推移に、加算と乗算処理を付け加えるだけで、多種多様なディジタル信号処理が実現できるのです。つまりは、3つの要素「遅延、加算、乗算」の組み合わせによる計算結果としてのディジタル信号の振る舞いを理解できれば、DFT(離散フーリエ変換)とz変換を組み合わせることにより、ディジタル信号処理から人工知能(AI)の世界までを完全制覇できることになります。
本講習会は2回シリーズで実施し、DSP技術からAIの学習アルゴリズムに至る基礎理論にフォーカスし、実際のシステム設計に役立つように分かりやすく解説しますので、ディジタル信号処理に関する特に詳しい知識は必要ありません。ただ、三角関数(sin、cos)および複素数の知識については、可能であれば、見直しておいてもらえるとスムーズな理解の助けになります(今回は、三角関数、複素数計算の初歩から説明する予定なので、ご心配はいりません)。また、フーリエ解析の基礎につながる資料として、
【フーリエ解析の基本の「キ」をザッと知ろう!】 (クリックしてください)
を用意しましたので、ご一読ください。
設計具体例としてディジタル・フィルタ(雑音除去、信号抽出)やサウンド発生器、適応フィルタから人工知能につながる計算アルゴリズムなどを取り上げます。シミュレーション演習を通して、「DSP技術を使えば、こんなことができるんだ」、「設計も難しいと思ってたけど、どうってことはない、超簡単なんだ」という感覚を実感してもらいます。
第1回は、ディジタル信号処理を理解する上での"キホンのキ"として「DFT、z変換」を取り上げ、数学的バックグラウンドを体感して習得していきます。フィルタやサウンド処理を例に、ディジタル・フィルタを実際に設計・プログラミングして応用できるように説明します。
第2回は、各種ディジタル・フィルタの伝達関数設計から実装までの流れを説明した後、ディジタル信号処理でしか実現できない適応フィルタ、さらに適応フィルタの計算アルゴリズムが人工知能(AI)の基礎理論(バック・プロパゲーション法)につながることを、シミュレータ演習を交えて解説します。
その際、科学技術計算用フリーソフトウェア「Scilab」、表計算ソフトウェア「Microsoft Excel」と、アナログ/ディジタル信号処理用シミュレータ「InterSim」を活用しながら、視覚的に理解してもらいます。
<1日目 内容>
1 DSPに必要な数学の基礎知識
2 コンデンサやコイルも使わないのに、「遅延、加算、乗算」の組み合わせで周波数特性がなぜ変わるのか
3 DFT(離散フーリエ変換)の考え方と原理を知ろう
4 ディジタル信号処理を理解する上での"キホンのキ"を知ろう
4−1 z変換
4−2 差分方程式
4−3 プログラム表現
4−4 ブロック線図
4−5 伝達関数とインパルス応答
5 伝達関数、ブロック線図、差分方程式、プログラム表現を使いこなそう
5−1 差分方程式から、伝達関数とブロック線図とプログラム表現を導き出してみよう
5−2 伝達関数から、差分方程式とブロック線図とプログラム表現を導き出してみよう
5−3 ブロック線図から、差分方程式と伝達関数とプログラム表現を導き出してみよう
6 いろいろなFIRディジタル・フィルタを設計して、信号処理を体験してみよう
6−1 DFTに基づく設計法
6−2 直接形構成、縦続形構成
6−3 IIR構成
7 ポイントの整理とまとめ、演習問題
<2日目 内容>
1 第1回の演習問題の解答
2 いろいろなIIRディジタル・フィルタを設計して、信号処理を体験してみよう
2−1 インパルス応答に基づく設計法
2−2 微分(または積分)オペレータに基づく設計法(双1次z変換)
2−3 直接形構成、標準形構成
2−4 縦続形構成
2−5 並列形構成
3 サウンド発生器を設計・実装し、動かしてみよう
4 適応フィルタの基礎を理解し、動かしてみよう
4−1 適応アルゴリズム(LMS)
4−2 システム同定(アナログフィルタのディジタル化)
4−3 雑音除去
5 人工知能の学習アルゴリズムの基礎を理解し、動かしてみよう
5−1 人工知能の概要
5−2 バック・プロパゲーション法に基づく学習計算アルゴリズム
6 ポイントの整理とまとめ
<ご注意>
・本技術講習会では、関数電卓が必要となりますので各自ご持参ください。
・講義に使用するソフトウエア(PC)の持込は、必ずしも必要ではありません(講師がプロジェクタ上で演示します)。
・ハイブリッド(アナログ/ディジタル)シミュレータ InterSim(90日版−無料試用版)及びScilabは、受講者の自習用に入手可能です。入手方法及びインストール手順については、本講習会へのお申し込み後に個別ご連絡いたします。
・ハイブリッド(アナログ/ディジタル)シミュレータ InterSimの詳細については、株式会社マイクロネットさまのHPよりご確認ください。
・Scilabの詳細については、ScilabのHPよりご確認ください。
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